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「GMOで農作業は楽になる!」という議論

GMO(遺伝子組み換え作物)に関しては、使うことによる社会に対するコストと利益を比較し、利益が大きければ使えば良い、という立場を私はとっています。ただ、日本で除草剤抵抗性などのGMOを使うメリットというのは今の所、見当たらないので当面は日本での栽培をする必要はないとも考えています。


ですが、今回は「GMOの栽培が農家の作業負担を軽減する(だからこんなにアメリカで広がってるんだ!)」という論文を紹介します。私はGMOを推進したいわけでは無くて、米国ではこの様な議論が行われている程、GMOが一般的になっている事を知っていただき、日本でのGMO栽培が検討された際の議論の一環となればと思います。


さて、GMOのメリットとコストを比較と言いましたが、その際には農家(や関連業者)へのメリットと消費者へのメリットという切り口があります。農家に限ってみた場合、遺伝子組み換えを使用する事でどのようなメリットがあるかといいますと、1.除草剤などのコスト削減 2.収量の向上、安定化 3.作業量の低減 などの説があります。その 「3.作業量の低減」 が本当にあるのかの調査が「glyphosate」という除草剤に耐性を持つ遺伝子組み換えの大豆、綿、コーンに対して行われ、実際にあるようだという論文がイリノイ大の農業経済の研究者から出ています。彼らは、それが全米で90%の大豆、6割の綿がGMOになった原因ではないのか、と主張しています。

紹介ニュース記事:And Why Is It Again That You Plant Biotech Seed?

論文(pdf):Genetically Modified Crops and Labor Savings in US Crop Production


ちょっと中味を見てみます(以下、ニュース元から抜粋・意訳)。


2002年の調査によると:
1) Bt cotton(綿)はコットンベルト地帯で利益を増やし、農薬の使用量を低減したと思われる。
2) Bt corn の使用は少量の収量の増加をもたらし、いくつかのケースでは統計的に有意な収入の増加をもたらした。
3) 除草剤耐性大豆の使用は、収量の不安定性による売上機会損失を低減した。


2001年の調査によると:
1) 除草剤耐性大豆の使用は、(除草剤耐性GMOとセット販売されている)安価な除草剤(glyphosate)への従来の除草剤からの乗り換えを誘発した。

2) 農家は労働と管理の労力低減によるコスト削減を自覚していた。(つまり農家も楽になったなーと自覚してる)

3) 天気が悪いせいで除草剤を撒く日が変更になっても、glyphosateは大きい雑草を主に枯らすのでそんなに影響がなくなった(セットで売られるglyphosateって除草剤は大きい雑草から先に枯らすから効率が良いってことかな)

4)glyphosateに人気が集まったので、他の除草剤の値段が下がった。



まぁ、大豆と綿に関しては、楽にはなるわ儲かるわ良いことずくめだ!と、なんというか、こいつモンサントから金もらってんのか、と言いたくなる様な内容が続きます。

それはさておき、上記のような結果を受け、以下のように結論付けています(これもニュース元から抜粋、意訳)。


1) 従来の栽培法を行っている農家では、除草剤耐性大豆の導入のよって23%労働が軽減された。これは除草剤耐性大豆を農家が使用する際の強いモチベーションになってるに違いない。


2) Bt コーンも 除草剤耐性コーンでは作業時間の低減はなかった。これはコーン栽培で時間を一番要する病害虫(borers)にそれらのGMコーンが効果ないからではないか。GMコーンに関しては収量の増加が栽培が広まった主要因ではないか。


3) GMコットンは除草剤散布の労力を大幅に減らし、農家の作業量低減に貢献した。


4) 以上の理由から大豆と綿では農作業は減るよ!


ここから感想ですが、この記事を読んだときに、農家の方と消費者の方では捉えかたが異なるのではないかと思いました。消費者としては、「農家の人が楽になるのは分かるけどちょっとねぇ」、と思ったでしょうし、農家の方は「、除草剤も撒かなくてすんで害虫防除の手間も下がるのなら、もし同じ値段で売れるんだったら作っても良いかな、、、」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。私も「消費者に直接的なメリットの無い遺伝子組み換えは社会へのメリットは薄い」と思っていましたが、この論文を読んで、農家が除草剤撒かなくてすむのはメリットかもしれない、と思ってしまいました(除草剤まくと肝臓に負担がかかるし。ただ花粉飛散などの環境リスクがクリアできたらという話ですが)。


最近、食品の安全性の不安が言われていますが、如何にして真面目に頑張った農家がちゃんと対価を受け取れるかと、農作業の負担を軽くして農家の生活の質をどうやって上げるか、を考える事で、社会全体として食品の安定供給と安全性のリスク低減を確保するという議論があった気がします。この結果を見てみるとそのための選択肢として、GMOが出てくる日もそう遠くは無い事かもしれませんね。